【実録】内科医師が医局を辞めて転職するまで

医師の転職

私の場合、医局を辞めて転職したことで、労働時間はこれまでの半分ほどになったにも関わらず給与はあまり変わらない結果になりました。残業はほとんどなく、人間関係が良好で、時間的・精神的な余裕を持って働くことができています。

これは働き方改革の流れやインターネットの発達のおかげで医局に所属しなくても個人で容易に転職先、就職先を見つけられるようになったからだと思います。

大学病院に勤務されている先生は激務にも関わらず薄給で働かれているはずです。やりがいを持って働かれているのであれば何の問題もありません。一方で今の働き方に満足していないのであれば、フリーランスとなったり転職して働く場所や組織を変えるというのも一つの手段です。

医局に頼らずに自ら就職先を探す医師はまだまだ一般的ではありません。麻酔科や整形外科の先生でフリーランスとして活動されている方々はご存知かもしれませんが、何の手技的なスキルのない一般内科医として転職した実体験を一例として記します。

※ここでの「フリーランス医師」とは非常勤の勤務先のみで働く医師と定義したいと思います。また、「転職」についても医師から全く違う職業になるのではなく、医局を辞めてあるいは医局の意向に従わず自ら就職先を見つけることとします。

転職しようとしたきっかけ

子供が産まれたことや投資からの収益が一定の規模になったことがきっかけではあります。もう少し本音を書くと医局の閉鎖的で封建的な働き方に馴染めなかったことや人間関係のストレスが背景にあります。同調圧力が強い中で、10人に1人くらいは武闘派の先生がおられて、私はよく的にされて大変でした(笑)。いまはそういった人間関係のストレスがほぼ皆無に等しいので本当に幸せで快適です。

これまで色々と疲れていたこともあり、しばらく医師としては勤務医でのんびり働こうと思っていました。社会とのつながりを持つことや、やりがいを重視していたので給与は下がっても問題ありませんでした。結果的には当直を何回もしていた時の給与とあまり変わりませんでした。

転職を考えた時期

転職する1年くらい前からなんと無くですが頭の中でスケジュールを考えていました。半年くらい前には医局には退局することを伝えたほうが良いだろうと思っていました。早めに伝えることで説得される期間が長くなるかと思いますが、引き継ぎの時間や礼節としては遅くなるよりも早いほうが無難かと思います。私は約半年前の9月中に医局に辞める意向を伝えました。

転職サイトに登録した時期

最初は情報収集の意味で前の職場を辞める半年前くらいから医師の転職サイトに登録しました。結果的には早めに登録したことで転職に成功したといえます。後からわかったことですが、良い条件の就職先は定員に達して募集が終了してしまうことや時間経過と共に条件が悪くなっていました。

スポットのアルバイト募集だと勤務間近のほうが給与がアップしますが、常勤や定期非常勤に関しては私の経験上は逆でした。

病院やクリニック側の気持ちを考えると、すでに必要最低限の人数が充足した後は、できれば追加で医師は欲しいけれど緊急性は乏しいからそれほど良い条件では出せないとなるのかもしれません。

給与や雇用は不安定になるのか?

給与や雇用は転職先によるというのが結論にはなります。転職して安定した国公立の病院に転職することもできれば、民間だけど給与が高額なところもあります。

これだと身も蓋もありませんので補足したいと思います。

フリーランス医師となった後も常勤として働くのであれば給与は基本的には最初に提示された月給や年俸になります。

一方で日給で働く非常勤だと祝日で休みになるとその日は給与はもらえません。祝日が多い月だと明らかに給与は下がります。不安定とまではいえませんが、常勤よりも変動は大きくなります。給与が下がるのが嫌な場合やどんどん給与を上げたければ、祝日にはスポットのアルバイトを入れたり、インセンティブ制度のある職場で働くなどして対応はできます。

雇用に関しては今までは医局の後ろ盾があったかもしれませんが、フリーランス医師にはそういったものはありません。フリーランスになる場合には労働条件を結ぶ際の内容にはこれまで以上に気を付けておいた方が良いです。

労働契約には期間の定めのない無期契約と期間の定めのある有期契約とがあります。今後、転職エージェントを通じて契約する際には労働期間の項目があるはずなので必ず確認しておきましょう。

無期契約は一般的な常勤医師の契約ですが有期契約はいわゆる派遣社員や派遣労働者の扱いになります。有期契約では契約期間中は一方的には退職ができずにその期間は働き続ける義務があります。

非常勤であっても基本的には無期契約がほとんどだと思いますが、もし有期契約であった場合には少し注意が必要です。医療機関としては採用の手間や費用を考えると医師にはできるだけ長く働いてほしいため無期契約を選択することが多いと推察しますが、トラブルを嫌うあるいは医師関連のトラブルの経験がある医療機関ではまずは有期契約とするかもしれません。

理不尽な解雇を受けた場合には、解雇理由証明書の請求を行ったり弁護士に相談することもできますが、まだまだ売り手市場のため、すぐに転職先を探したほうが費用対効果は良いと思います。給与の未払いについては弁護士に相談するのが良いでしょう。契約時の書類や給与明細は必ず保管しておきましょう。

とはいえ、コロナ禍の飲食や旅行業界の大変さと比べると、雇用の安定性という点においては非常に恵まれています。ですので、それほど給与や雇用の不安定さを心配する必要はないかと思います。

フリーランス医師・転職はまだまだ求められている

医師が自ら就職先を探して職場を変えることやフリーランス医師になることは全国的にはまだまだ一般的ではありませんが、給与や雇用のリスクが限定的な中で、得られるのは給与アップはもちろん、家族との時間だったり、健康だったり、人間関係の自由などです。

私は得られるメリットのほうがはるかに大きいと感じています。今まで過ごす時間が少なかったご家族や医局とのコネが無い医療機関からは求められている働き方だと思います。

特に地方ではまだまだフリーランス医師や医局に属さない働き方が一般的ではないので、買い手の医療機関側に対して売り手の医師がそもそも圧倒的に少なく、フリーランス医師となればさらに稀です。

例えば、地方中核都市に進出したい医療法人で医局とのコネクションがないところは必然的に転職エージェント経由で医師を募集します。地方では医局に所属しない勤務医は希少ですから、そうなると医療法人側は高条件を提示してくれたり、交渉できる余地が出てきたりします。

まだまだ売り手市場であるからこそ、医療機関側も柔軟に対応してくれることが多いはずです。今の働き方に疑問を持たれているようでしたら、勇気ある一歩を踏み出していただければと思います。

フリーランス医師になった時の健康保険や国民年金

常勤で働いている先生が転職先でも常勤として勤務するのであれば、手続き等は今の勤務先や就職先が行なってくれるためそれほど心配はいりません。これまでのように病院が変わるだけです。

一方で、一時的にであれ定期非常勤やスポットバイトの組み合わせのみのフリーランスで働く場合にはいくつか手続きが必要になります。

一つは公的医療保険です。常勤の先生であれば健康保険、または公務員の共済組合に加入されているかと思います。

常勤から非常勤になる場合には、国民健康保険(国保)と任意継続健康保険の二つがあります。任意継続健康保険は2年間という期限がありますが、従前の健康保険を引き継ぐことができます。任意継続の保険料の基準は、退職時した時の標準報酬月額またはすべての被保険者の平均標準報酬月額の低いほうが採用されます。標準報酬月額には上限があることや低いほうが選ばれるため、高所得者ほど任意継続を選んだほうが国民健康保険より保険料は少なく済むことが多いです。

退職時には、親切な病院であれば事務の方から任意継続の話があるかと思います。任意継続被保険者になるには退職した翌日から20日以内など期限があるため、知らないと申し込めなくなります。該当する場合には忘れずに申し込んでおきましょう。

では2年間後に任意継続が終了した後の対策はあるのでしょうか。通常通り、国民健康保険に加入するパターンが一般的ですが、知り合いの税理士から教えてもらった方法を参考までにご紹介します。

資産形成のために収益不動産をご自身や奥様が代表の法人で購入していた場合、その法人から最低限の役員報酬を代表や奥様に支払い、その法人で社会保険に加入する方法があるそうです。これは私自身は実行したことがないため、ご担当の税理士に相談をお願いします。

いずれにせよ、フリーランス医師になる場合には何かの事業会社を一つでも持っていると、法人の経費として使えたり節税の手段が増えるので非常にメリットがあります。事業会社というと大きな話に聞こえるかもしれませんが、このブログにも記載のように資産形成として1棟の収益不動産を法人で購入すれば立派な事業会社になります。話が少し逸れましたので本題に戻ります。

次に年金ですが、フリーランス医師になると国民年金になり自ら支払う必要があります。私の場合には書類が届かなかったので近くの年金事務所に電話をして振り込み用紙を送ってもらいました。これまで配偶者が扶養だった場合には、配偶者の国民年金も支払うことになります。

具体的にどこの転職エージェントがいいのか?

ではどこの転職サイトが良いのでしょうか。私自身が複数の転職エージェントに登録してみた感想を書きたいと思います。転職エージェントによって取り扱う求人に違いがあります。特定のエージェントにしか掲載していない医療機関もあるので複数登録して見比べたほうが良いです。給与でも多少条件が違っていたりします。

できれば3つくらい登録して良い条件の求人を探しましょう。転職サイトに登録すると多くの場合、担当者と直接面談するかオンラインで面談を行い、本人確認や希望する転職の条件を聞かれます。一度面談をすると担当者も先生の人となりが分かるので、個別の直接最適な求人を紹介してくれます。

私の場合、希望条件のスポットバイトが出てくると担当者からメールで連絡が来るようになりました。また、一斉配信のメールでも定期的に求人情報が届くので、その中から良い条件のものに応募しても良いです。

私自身が登録したことのある転職エージェントを3つご紹介します。

お馴染みM3.comのエムスリーキャリア

医師の9割が登録しているエムスリーが運営する転職エージェントです。一部上場で日経225にも採用されるだけあり、仕事は超がつくほど早いです。私が最初に何気なく登録したのがエムスリーです。求人登録をした5分後くらいには電話がかかってきました。その後もどんどんと具体的な求人を紹介してくれました。

ただ、私は転職の半年前にエムスリーに登録していて、当時は情報収集の意味合いも強かったため、紹介された求人は一旦は見送ることにしました。それでも個別での求人紹介や一斉配信のメールでも求人情報をくれるので大変重宝しました。

情報収集の段階であっても、馴染みのあるエムスリーであれば登録しておいて損はないです。仕事のテンポが早いので、その点はあらかじめ知っておいてください。特に、1ヶ月後、2ヶ月後の転職先を探す必要が出た場合にはおすすめのエージェントです。

求人検索は非常に快適で読み込みが重いことはありません。内科系、東京都、年収2000万円以上で調べても300件以上の求人が出ています。同じ医療機関の求人が違うエージェントから掲載されていることもありますが、それでも十分な数です。

具体的な求人情報はエムスリーでお馴染みの担当者顔写真付きで掲載されています。時短勤務や週3、4勤務、当直なし、オンコール無しなど様々な条件にも対応してくれます。

遠方の高額求人・珍しい求人のある医師転職ドットコム

次は医師転職ドットコムです。調剤薬局業界1位のアイン調剤で有名なアイングループの医師転職エージェントです。メディウェルという社名で医師の転職をサポートしています。登録してみた感想としては担当者は非常に丁寧でこちらの条件にあった非公開求人を直接メールで紹介してくれました。公開されている求人よりも良い条件の案件が多かったです。

特筆すべきは全国各地に拠点がある点です。特に札幌が本社なだけあって、北海道の案件は他のエージェントにはない高額で珍しい案件が多い印象です。

メールマガジンにて定期的に全国各地の求人が届きます。拠点が多数あるだけあって、スポットバイトの求人情報も豊富です。

転職して変わった2つのこと

転職して変わったことはいくつもありますが、一番は時間的な余裕ができたこと、もう一つは人間関係のストレスがほとんど無くなったことの2点が大きいです。主観的な幸福度は大きく向上しました。

転職すると個人と医療機関とで明確な契約を結ぶことになります。勤務時間もしっかりと記載があるため、個人も医療機関側もその時間内に勤務が終わるように普通であれば努力します。

よくあるような先輩が帰るまではなかなか帰れなかったり、長く病院にいる先生が偉いという雰囲気が今はありません。契約上の時間通りに終わることがほとんどです。

医療機関側としても生産性向上のために使いやすい電子カルテを導入したり、他の職員がカルテ入力の補助をしてくれたりと様々な努力をしています。

もう一つは人間関係のストレスがほとんど軽減したことです。医局とは関係のない医療機関に勤めたことで、明らかにコミュニケーションが取りづらい先生とは会わなくなりました(笑)

そういった先生は経験上、患者さんともトラブルを起こすことが多かったです。医療の世界は正しい医学知識をそのまま患者さんに言えば良いというわけではないからです。伝え方も大事です。

今までだと人間性に相当な問題があっても医局のつながりや資格、肩書きで雇われている先生が少なからずおられました。転職の世界では一般的な社会常識が通じやすいので私としては非常に働きやすいです。

転職する際には医療技術だけなく他の職種と上手くコミュニケーションを取る能力も必要です。医師の求人欄に度々【しっかりとコミュニケーションを取れる人】という記載があるのもそうでない先生がおられるからでしょう。

逆に言えば、平均的な知識や経験であってもコミュニケーションがしっかり取れる先生であれば十分に働けます。

日本の医療は長時間労働や無給労働の先生方が支えていることは重々承知しています。その上で、早く燃え尽きてしまうよりも働き方や待遇に満足し長く働くほうが、結果として多くの患者さんの役に立てると思っています。

私自身、今の働き方に非常に満足しているため、患者さんや周りの人に今まで以上に優しく接することができています。

ここまで一内科医の経験や考えを述べさせていただきました。転職を考えている先生の参考になりましたら幸いです。